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浦和地方裁判所 昭和54年(ワ)351号 判決 1982年5月17日

原告

神長美代子

ほか一名

被告

国・埼玉県

ほか一名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告神長美代子に対し八二五万八六六六円及びこの内金六二五万八六六六円に対する昭和五一年一月二五日から、内金五〇万円に対する本訴提起日の翌日から、内金一五〇万円に対する本判決言渡日から各完済まで年五分の割合による金員を、原告神長正夫に対し一一四五万四八三一円及びこれに対する本判決言渡日の翌日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言(被告国、同埼玉県につき)

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (交通事故の発生) 神長敬二は、左の交通事故(以下「本件事故」という。)により昭和五一年一月三一日午後一時四五分、医療法人丸山病院において、頭蓋骨折、脳挫傷、肋骨骨折、血気胸のため死亡した。

(1) 事故発生日時 同月二五日午前九時一五分頃

(2) 場所 埼玉県大宮市大字宮ケ谷塔一二四七番地一先路上で新箕子橋際にして、国道一六号線と県道浦和岩槻線との交差点(以下「本件交差点」という。)

(3) 態様 神長敬二が、県道を浦和市方面から岩槻市方面に向けて原動機付自転車(Aさ二五二、以下「原告車」という。)を運転し、本件交差点にさしかかつたところ、同交差点内の信号機が作動していなかつたので、左右前後に注意力を配分して同交差点に進入し、これを渡り切ろうとした際、折柄、国道一六号線を大宮市方面から千葉県方面に向けて大型乗用自動車(埼二二わ七一、以下「加害車」という。)を運転し、同交差点にさしかかり、同交差点内の信号機が作動していなかつたため、そのまま同交差点内に進入した豊泉義雄運転の加害車によつて自車後部に衝突され、前記傷害をうけ、死亡せしめられた。

2  (本件事故現場の状況等)

(1) 道路設置等の配置状況等、見とおし状況 本件事故現場は、いずれもアスフアルト舗装の県道浦和岩槻線(以下「本件県道」という。)と国道一六号線(以下「本件国道」という。)との交差点であるが、両道路の位置、幅員、本件交差点の形状、信号機の位置、その路傍の建物等の配置等の概況は、別紙見取図のとおりである。点においては、その右方への見とおしは良好であるが、左方に対する見とおしは、交差点角の建物、生垣等が妨げとなつてきわめて悪い。他方、点においては、その右方に対する見とおしはきわめて悪く、本件県道から本件交差点に進入しようとする車両については前記生垣、建物が存し、本件県道がゆるやかながらわん曲しているためこれを視認することは全くできない。

なお、本件国道を大宮市方面から千葉県方面に向けて進行するとき、本件交差点手前七六m余の地点で急激に右方にわん曲しているものの、該わん曲地点を過ぎると、本件国道自体の前方への見とおしは良く、その道路幅も広いため、車両は加速する傾向にある。

(2) 交通量 本件国道は、一日中車両が途絶えることなく、非常に交通量も多く、また本件県道も岩槻駅に近いため交通量は多い。

(3) 当時の信号機の状況 本件交差点は、不整形十字型交差点であつて、別紙見取図表示のとおり合計五箇の信号機が設置されていたところ、本件交通事故発生当日は、午前六時より、午前九時三〇分まで、被告東京電力株式会社(以下「被告東電」という。)において、大宮市大字宮ケ谷塔、同市風渡野、同市東門前各地区約一三〇〇世帯の家庭用電気及び以上地区内の一部の交通信号機への送電を中止していたもので、本件交差点内の前記五箇の信号機はもとより、前記本件国道上のわん曲地点における信号機も全く作動していなかつた。

3  (被告らの責任)

(1) 被告国の責任

(イ) 被告国は、本件国道の所有者兼管理者であるところ、本件国道の一部である本件交差点内には前記のとおりの信号機が設置されているのであるから、該信号機の正常なる作動を確保し、これによつて本件国道につき国道ととしての安全かつ円滑な運行ないし交通という機能を保つべく、信号機が正常に作動しないときは、埼玉県に対して適切な指示をなし、信号機の交通上の機能に代替する措置等を講ずべきであるのに、前述のとおり本件信号機の不作動のまま放置し、もつて公の営造物たる本件国道の管理に瑕疵があつたから国家賠償法二条所定の賠償責任がある。

(ロ) 仮に、右主張が認められないとしても、被告国は右のとおり信号機の作動につき配意し、もつて交通事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然不作動のまま放置した過失と、本件国道を進行していた豊泉において、前記のような見とおし状況のため、本件県道から本件交差点に進入する亡敬二を現認できなかつたので、本件県道から進入する車両がないものと誤信し、信号機が作動していなかつたのに徐行することなく相当の速度で進行した過失とによつて本件交通事故を惹起せしめたので、被告国には民法七〇九条所定の損害賠償責任がある。

(2) 被告埼玉県(以下「被告県」という。)の責任

(イ) 被告県は、本件県道の所有者兼管理者で、本件交差点には埼玉県公安委員会が道路交通法四条により別紙見取図表示のとおり信号機を設置管理しているところ、本件交通事故発生に先立つ四日前である昭和五一年一月二一日、被告東電から被告県大宮警察署長に対し、本件信号機への送電を本件交通事故発生当日の午前六時から午前九時三〇分まで中止する旨を文書並びに口頭で通告されているのであるから、被告県はこれが対応として、交通警官による手信号、または被告東電に対する応急電源車の派遣の要請による信号機の正常作動の確保等の措置をなすべきであるのに、右措置を講じないで放置したのであるから、被告県は公の営造物である本件信号機の管理に瑕疵あるものとして国家陪償法二条所定の賠償責任がある。

(ロ) 仮りに、右主張が認められないとしても、被告県にも前記(1)の(ロ)と同様(及びさらに具体的には右(2)の(イ)の事情)の理由により民法七〇九条所定の損害賠償責任がある。

(3) 被告東電の責任

被告東電は、本件信号機に対し、独占的・継続的に電力を供給する地位にあり、本件信号機が設置されている本件国道及び本件県道は交通が頻繁であつて、本件信号機への送電を停止しこれが作動しなければ、交通事故発生の危険性があることをたやすく予見できたのであるから、本件信号機への送電を停止するにあたつては、事前に予め、交通事故が発生しないよう、その設置管理者である被告県に対し、送電停止を文書並びに口頭で通告するのはもちろん、被告県から右送電停止時間中いかなる方策を講ずるかの回答を得、該方策の交通事故防避に関する有効性、適切さを検討し、これが適切でないときは自ら応急電源車を配置するなどして、正常送電による本件信号機の正常作動による交通の安全・円滑についての機能にかわる措置をなす義務があり、さらに送電停止当日についても、被告県の具体的措置を確認し、適切でない場合もしくは何らの措置もない場合には、ただちに被告県に対し県体的措置を講ずるよう連絡するか、自らも応急電源車の配置等を講じ、もつて交通事故の発生を防止すべき義務があるのに、被告東電は前記のとおり四日前に被告県に対し送電停止の通告をしたのみで、送電停止当日、被告県の採つた具体的措置を確認することなく、また自ら何の措置をも講ずることなく、漫然と送電を停止した過失によつて本件交通事故を惹起せしめたのであるから、民法七〇九条所定の賠償責任がある。

4  (損害)

(1) 亡敬二の逸失利益 二四八五万一〇九九円

亡敬二は、本件交通事故発生当時、四九歳の健康な男子で、その前年一〇月から神長製作所にプレス技術者として技術参加を誘われ、将来はその共同経営者となるべく準備中で、同年一一月ないし昭和五一年一月の間は、毎月一二日間就労勤務し月収一〇万二〇三〇円を得ていたものであるところ、本件事故に遭遇しなければ、六七歳に至る一八年間、毎年少くとも昭和五一年度賃金センサスによる月収二五万二八〇〇円の収入を得べく、これから三割五分の生活費を控除した年間純収入を新ホフマン式計算方法(係数一二・六〇三)により年ごとに年五分の割合による中間利息を控除した現価は頭書金額となる。

(2) 葬儀費(定額) 五〇万円

(3) 原告らの慰謝料 九〇〇万円(原告美代子につき三〇〇万円、原告正夫につき六〇〇万円)

(4) 入院治療費 五四万四九〇〇円(事故当日から同月三一日まで)

(5) 入院諸雑費(定額) 三五〇〇円(一日五〇〇円の七日分)

(6) 看護料(定額) 一万四〇〇〇円(一日二〇〇〇円の七日分)

(7) 弁護士費用 二〇〇万円

被告らは原告らに対する損害賠償につき任意の弁済をしないので、原告らは本件原告ら訴訟代理人弁護士らにその取立を委任し、着手金一〇〇万円の内金五〇万円を本訴の提起にあたつて支払い、残金五〇万円及び成功報酬一〇〇万円を本件判決言渡日に支払う旨を約した。

(8) 損害の填補 原告らは前記(1)ないし(6)につき合計一七二〇万円の支払をうけたので、原告美代子は六〇八万七四三四円、原告正夫は一一一一万二五六六円を弁済充当した。

(9) 相続と出捐 原告美代子は亡敬二の妻、原告正夫は亡敬二の子であり、前記(1)のうち前者はその三分の一を、後者は三分の二を相続により承継取得し、(2)及び(4)ないし(7)は原告美代子が出捐した。

5  よつて被告ら各自に対し、原告美代子は、右(8)による一部弁済充当後の残金合計である六二五万八六六六円と(7)の合計八二五万八六六六円及びその内金である右六二五万八六六六円に対する本件交通事故発生の日である昭和五一年一月二五日から、内金である弁護士費用のうち支払済の着手金五〇万円に対する本訴提起の翌日から、残金一五〇万円に対する本判決言渡日の翌日から各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告正夫は右(8)による一部弁済充当後の一一四五万四八三一円及びこれに対する昭和五一年五月二五日から完済まで右同様の遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  被告国

1 請求原因1、2のうち、原告ら主張の日時、場所で、神長敬二運転の原告車と豊泉義雄運転の加害車とが接触する交通事故が発生したことを認め、その余の事実は不知。

2 同3の(1)のうち、被告国が本件国道の所有者兼管理者であることは認め、その余の主張は争う。被告国は信号機の設置権限もまたこれによる交通規制に対する管理権限も全く有しないものである。

3 同4は不知。同5は争う。

(二)  被告県

1 請求原因1のうち、(3)を除いて認める。

2 同2のうち、(1)、(3)を認め、(2)を否認する。本件交通事故発生当時の現場の交通量は、日曜日であつたため交通整理を要するほど車両が輻輳していたことはない。

3 同3の(2)のうち、被告県が本件県道の所有者兼管理者で、本件交差点には埼玉県公安委員会が道路交通法四条により別紙見取図表示のとおり信号機を設置管理しているところ、本件交通事故発生に先立つ四日前である昭和五一年一月二一日、被告東電から被告県大宮警察署長に対し、本件信号機への送電を本件交通事故発生当日の午前六時から午前九時三〇分まで中止する旨を文書並びに口頭で通告されていたことを認め、その余の事実を否認し、その主張を争う。

4 同4を争う。

5 積極的主張

(1) 道路交通法三六条にいわゆる「交通整理の行われていない交差点」とは、その直前まで交通整理が行われていた交差点であると、または交通整理が行われなくなつた原因の如何を問わず、現実に交通整理の行われていない交差点」を指すべく、また交通整理を行うか否かは専ら裁量行為であるから、従前より交通整理を行つている交差点についても法的には任意に何時でもこれを中止し得べく、さらに停電によつて交通整理が行われなくなつたときでも、直ちにこれに代る措置を執るべき法的義務はなく、結局本件交通事故は交通整理の行われていなかつた交差点で、左記のとおり交通法規を守らなかつた者同志によつて惹起されたものにすぎず、この事故と信号機の作動停止との間には因果関係がない。

(イ) 豊泉義雄は自動車運転の業務に従事する者であるが、昭和五一年一月二五日午前九時一五分項、加害車を運転し、本件国道を大宮市七里方面から春日部市方面に向け時速三〇kmで進行し本件交差点にさしかかつたものであるところ、同交差点には信号機が設置されていたものの、停電のため作動していなかつたのであるから、このような場合自動車運転者としては同交差点の交通、特に本件県道の交通状況に注意力を適正に配分して進行し、もつて交通事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、本件国道が本件県道より広く、本件県道からの交通はないものと軽信し、本件県道の左方部に注意力を過度に集中して漫然進行した過失により、折柄、本件県道の右方部から進来した神長敬二運転の原告車を七、八mに接近して始めて発見し、急停車の措置をとつたが及ばず、自車右前部を原告車の左ハンドル付近に衝突させ、よつて同人を同月三一日午後一時四五分頃、岩槻市本町二丁目一〇番五号丸山病院において頭蓋骨骨折により死亡するに至らせたものである。

(ロ) 神長敬二は、昭和五一年一月二五日午前九時一五分頃、本件交差点において、当時、同所は停電のため信号機が作動せず、ために交通整理が行われていなかつたので、自車の進行する本件県道は幅約六mの狭い道路で、これから幅が明らかに広い道路である本件国道(の一部である本件交差点)に進出する際は徐行しなければならないのにこれを怠り、広い道路である本件国道にあつた加害車に進路を譲らないで原告車を運転し、もつてその進路を妨害したものである。

(2) 昭和五一年一月二一日、被告県大宮警察署長は、被告東電埼玉支店大宮営業所長から文書並びに口頭をもつて、配電線強化工事のため、同月二五日日曜日午前六時から午前九時三〇分まで<1>大宮市東門前三二一番地先<2>同市大字宮ケ谷塔四番一号先<3>同大字塔一一九六番地先<4>本件現場<6>同大字塔一二〇八番地先の各場所に設置してある交通信号機停電の事前通知を受けたので、右署交通課員と被告東電係員が、停電中の交差点信号機の安全対策につき協議の結果、<1>については被告東電の予備回線を使用送電して平常とかわりなく信号機を作動させる<2>、<5>については危険度が少いので滅灯する<3>、<4>については被告東電所有の携帯用発電機を備えつけ、停電時間中信号機を作動させるとの決定を得たものである。

(三)  被告東電

1 請求原因1のうち、当日事故があつたことは認めるが、その余は不知。

2 同2の(1)、(3)を認め、(2)を否認する。

3 同3の(3)のうち、被告東電が本件信号機に対して、独占的継続的に電力を供給する地位にあること、被告東電が昭和五一年一月二一日被告県に対し送電停止の通告をしたのみで、送電停止当日、被告県の本件交差点における具体的な措置を確認することなく、また自ら何の措置をも講ずることなく送電を停止したことは認め、その余の事実を否認し、その主張を争う。

4 同4、5を争う。

5 積極的主張

(1) 本件信号機の不作動と本件交通事故の発生との間には因果関係がなく(道路交通法三六条の解釈については被告国に同じ)、本件交通事故は亡敬二または豊泉が注意義務を怠つたために発生したものである。

(2) 仮りに、右因果関係があるとしても、被告東電は送電停止にあたつて、前記被告県が主張した方式及び内容の通告をしているから、被告東電には故意も過失もない。

(3) さらに、被告東電は送電停止をうける約一三〇〇世帯ごとに停電の通報ビラを一枚配布し、町内会掲示板、電柱等にも同内容のポスター合計五〇枚を貼付して周知をはかつた。

なお、被告東電が大宮署員と被告県が前記5の(2)で主張するような協議をしたことはない。しかし、当時大宮署でその主張のような信号機安全対策を決定したことに伴い、この措置を実施するための必要な送電作業を被告東電がなす旨を同署に確約したこと、これに先だち同署から求意見されたので意見具申したことはある。しかし被告東電は本件信号機に関しては当日午前六時頃、係員をして携帯用発電機を備え付けたうえ送電を試みたが、右発電機が作動しなかつたため、現場を離れ、被告東電埼玉支店大宮営業所で原因調査中、本件事故が発生したものである。そして右係員は発電機の不作動現場退去をいずれも大宮署員に報告しなかつた。

三  抗弁(消滅時効、被告国)

仮りに被告国に損害賠償責任があるとしても、その賠償請求権は、原告らが本件交通事故の日である昭和五一年一月二五日に右損害及び加害者を知つたというべきであるから、昭和五四年一月二五日または亡敬二の死亡から三年を経過した同年二月一日には時効によつて消滅しているからこれを援用する。

四  抗弁に対する答弁

原告らにおいて被告国を加害者と知つたのは昭和五四年三月末頃である。

第三証拠〔略〕

理由

一  責任原因について

1  いずれも成立に争のない甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし一六、乙第一、二号証、第四、五号証、丁第一号証の一、二、証人豊泉義雄の証言に弁論の全趣旨を総合すると、請求原因1、2の各(1)ないし(3)、請求原因に対する答弁(二)の5の(2)(ただし、協議の点を除く。)、同(三)の5の(3)の各事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

2  そこで被告らの責任について検討する。

(1)  被告国が、本件国道の所有者兼管理者であることは、当事者間に争がなく、本件国道の一部である本件交差点内には別紙見取図表示のとおりの信号機が設置されていることは前認定のとおりであるものの、後記のとおり該信号機の設置及び管理の各権限は被告国にはないことが明らかであるから、本件信号機自体をもつて被告国の管理する公の営造物と解し得ず、その管理の瑕疵の主張は失当である。

次に原告らは民法七〇九条所定の直接の不法行為責任を云為するが、信号機の設置、管理が右のとおりであるから、他に特段の主張のない本件では、直接の不法行為責任を訴求する主張も失当である。

(2)  次に被告県に関して考えるのに、同被告が本件県道の所有者兼管理者であり、本件信号機を管理することは当事者間に争はなく、前段認定の事実関係のもとでは、亡敬二及び豊泉義雄にもそれぞれ請求原因に対する答弁(二)の5の(1)の(イ)、(ロ)記載のような本件交通事故発生原因たる過失があるものの、被告県にも本件交差点の如く、終日交通輻輳し(豊泉証言によれば、本件交通事故発生直前当時は、比較的車両の交通が閑散であつたことが認められるものの、本件国道、県道がいずれも交通頻繁な主要道路であるとの推認を覆すに足りるものではない。)、交差する国道との相互車両間での見とおしがきわめて悪く、かつ、該国道からはわん曲部を脱して加速し勝ちの短区間に位置しており、交差車両の衝突等の交通事故発生の高度の蓋然性が予見されるため交通の円滑と安全を期する目的で、常時、信号機によつて交通整理を行つているときは、信号機自体が公の営造物であつて、その停電による不作動を生じ、その機能の代替措置を講じないときは該営造物の設置、管理に瑕疵あるものと解すべく、また本件交差点における信号機の如く相当高度の必要性を所期される場合には、その送電停止による不作動に際しては、携帯発動機による作動にあたつてはその現実の作動を確認する程度の安全配慮義務を負うものと解するのが相当であるところ、これをしなかつた被告県には、国家賠償法二条及び民法七〇九条の責任があるといわざるを得ない。(なお、道路交通法三六条の規定は、車両に対する公法、従つて刑事法ないし行政上の規定であつて、該法条を援用するも被告県及び同東電は缶任し得ない。)

(3)  さらに被告東電についていえば、同被告が本件信号機に対し、独占的・継続的に電力を供給する地位にあることは、当事者間に争がなく、この事実と前段認定の事実関係並びに送電、発電の如きは時に危険を伴う相当高度の技術的ないし専門的事柄であるとの公知の事実からすると、本件の如く、専ら被告東電の事情によつて停電するものであり、しかも前叙のようなかなり重要な本件信号機の不作動に至るときは、携帯発電機による送電等の代替措置を自らなす義務があり、該措置の不奏効に際しては、直ちに被告県の警察官等に通報して適宜適切な措置の代替を求めるべき義務がある(右通報をしないときは、前叙の技術性・専門性から、警察官において右代替措置の機を失するおそれがある。)と解するから、これを怠つた被告東電にも本件交通事故により原告らの蒙つた損害の賠償責任があるといわざるを得ない。

二  亡敬二の過失について

本件交通事故の発生につき亡敬二にも過失があることは前記のとおりであるが、前段一の1に認定した事実のほか、弁論の全趣旨によつて成立を認める甲第七号証、前掲豊泉証言によつて認められる加害車は時速約三〇kmで走行していたのに、原告車はそれよりも速かつたこと、原告らは豊泉との示談に際し、自己側の過失を五割として了承したこと等の諸事実を併考すると、本件交通事故発生につき亡敬二と被告県、同東電側との各過失を対比すると、亡敬二のそれは少くとも六割程度と解するのが相当である。

三  損害額について

原告両名が本訴において訴求する損害総額は三四九一万三四九九円であり、そのうち、一七二〇万円が填補されたことは自認するところであるが、仮りに原告らの訴求総額をすべて認容するとしてもその過失相殺後の賠償額(被告県、同東電は、明示的には過失相殺の主張をしないが、因果関係を争うばかりか、亡敬二の原因過失を挙げ、また原告らも同人の有過失を先行自認している本件では、被告らには過失相殺の黙示的主張があるものと解する。)から右填補額を控除すると、その残額は少くともありえないことが計数上明白であるから、その余の判断をしない。

四  よつて原告らの本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 薦田茂正)

別紙 事故現場見取図

<省略>

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